食文化コラム ウガリについて考えた 人が生きていく上で、自らを黒人だなあと思う瞬間は何度あるだろうか。 オレことホークは今現在非常にプ−太郎なのだが、こう見えてかつてはビジネスマンであった。背広組であった。そして激烈に安月給だった。時給換算で吉野家に大敗を喫したのだった。それでまァ夜中まで働いて、家に帰る途中でザバーなんて大雨に降られたりするとああオレって黒人なんだなあと思ったものだ。なんでだよ! こんなこと書いてると「嫌ねえ、ホークって人種差別のステロタイプにはまり込んだ男なんだわ!」とか言われるかもしらんが、オレもメガネをかけた出っ歯の(RとLの区別がつかない)エコノミックアニマルなんだから、そのへんはイーブンてことにしようや。 まァしかし日常生活においても、オレは黒人なんじゃねえかと思わされる瞬間は結構あるもので、例えば皆でメシ食いに行ってオレだけサービスのコーヒーが貰えないときだとか、またはロッテリアで便所を貸して貰えないときだとか、あとオレだけ水飲み場が別だったときだとか、それとラッパが欲しくて楽器屋の窓に張り付いたりしたときだとか、まァ民主主義社会とか言いながらも、差別というのはまだまだなくならないもんだなと思うのだった。 いきなり支離滅裂この上ない文章になってしまったが、それは今が朝の8時だからどうにも仕方ないとして、今回のテーマであるウガリだ。ウガリってなーに?と聞かれるあなたにはまァこことか、ここに飛んでもらうとして、まァひとことで言えば世界一貧しい食事というか、そんなことを言うと語弊があるが、どうせこのコラム自体が巨大な語弊なんだから構わんよ。 それでウガリ。もう名前からして痺れてしまう。 ウガリ。 トウモロコシの粉を水で溶いて煮た食事ですが。 昔調べたところによると、 ウガリの作り方 1) 1000ccの水を沸騰させ、とうもろこし粉を加える前に、その1/4ほどとっておく。 2) 1)がポテトくらいのかたさになるまでかきまぜ、あたためる。 とうもろこし粉を入れすぎた場合は、とっておいた1/4の湯で調整するとよい。 3) いい匂いがしてくるまで、2をよく混ぜる。火の加減を見ながら、10分くらい煮る。 4) 3)の表面に、角が立つかたさになったら小さくカットしてBeef Stewに添える。 という具合に作る食べ物らしいんですが、しかし「とうもろこし粉を入れすぎた場合は、とっておいた1/4の湯で調整するとよい」という辺りが実にいい加減で好感が持てますね。料理ってのはこうでなきゃな! こうやって見るとだいぶ真っ当な食べ物に見えるが、オレに言わせリゃこんなもんはウガリじゃねえんです。 オレの中のウガリはもっと薄くてね、もう水じゃねえかよってぐらいの薄さで。そういう極限まで水で薄めたようなウガリをね、タンザニアあたりの貧しーい黒人一家(82人家族)がですよ、分け合って食べるんですな。蠅がブンブン飛ぶ裸電球の下で。もうねえ、よせばいいのに家族が増えてばっかりだから。 外では暴動が起こってます。 警官隊の怒号が聞こえてきます。警棒で殴打されている若者たちの中には、長男のモゲベ(32歳)も混じってるわけですよ。そんな状況が聞こえてくる中で食するウガリ。オレぁもう涙が止まりませんよ。 と、完全に勝手に決めつけているウガリですが、そうやってまったく勝手に決めつけるとすればオレの中ではウガリとは世界一惨めな食事なのだ。何たってウガリだからなあ。 もう名前からしてマズそうだもの。で、前述のオレは黒人なんじゃないだろうかという瞬間、そんなときにオレはウガリのことを考えるのです。ああもうオレぁウガリ食べるしかないじゃんと。 かつて勤めていた会社で担当していた業務を外されて、激烈にショッパイ仕事を担当させられることになったとき、オレは自らの不遇を先輩に嘆いていたのですが、そのとき先輩がオレを慰めて言ってくれたことが今でもオレの心に蘇ってきます。「まぁ、今まで特上にぎり寿司を食ってた人間が、今日からお前の主食はウガリだって言われるようなもんだからなあ…」 街を歩いてると、この人、黒人になりたいのねと思わされる若者たちとすれ違うことはよくあるが、オレが彼らに言いたいのは、ウガリも知らずに黒人になりたいなんてのはちょっと虫がよすぎやしねえかということなのだ。ウガリを食って、はじめてリアルな黒人心理を理解できるのではないかと。 そういうわけでこの夏以降、もとビジネスマンのオレは日本にウガリを仕掛けていこうと思います。もうベルギーワッフルとかドネルケバブとか、そういう時代は終わった! これからは街角にウガリ屋さんができるのだ! 若いお姉ちゃんが、端っこの欠けたドンブリを持ってウガリ屋さんに行列を作るのだ! ウガリ、バカ売れ!オレ大儲け!なんたって原価4円ぐらいだからな! 東京ウォーカーにも載るぞ!この夏のウガリスポットの特集も組まれるぞ! そんなわけで、現在フランチャイズ募集中です。いいかげんにしろ! |